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ちょっとした想像力と思いやり……という話

日曜の夜、妻と友人2人と4人で神泉で飲みながら、なんとなくこの特別お題「心温まるマナーの話」のことを話し合いました。
友人や妻から聞いたエピソードと、その夜の帰りの京王線で見かけた光景を書いておこうと思います。

カナブンと男子高校生の話

友人から聞いたエピソードです。
友人はいつものように電車で職場へと向かおうとしていました。
ホームから電車に乗り込み、しばらくたった頃、なにやら車内がざわつき始めました。
見ると一匹のカナブンが乗客の頭上を旋回しています。
カナブンですから特に害を及ぼすようなことはないものの、やはり皆、気になってカナブンが寄り付かないように手で払ったりしています。
まぁ少なくとも飛び回るカナブンを捕まえようとする人は普通いないですよね……
ところが、そんな中、長身の男子高校生がヒョッと手を差し伸ばして……なんとカナブンを一掴み!(すごい動体視力と反射神経!)
電車が次の駅に到着し、ドアがあくと同時にカナブンを車外へと離したのだそうです。
カナブンを捕まえたスキルはともかく、ほとんど誰もが積極的にはカナブンをどうにかしようと思わない中、意を決して手を伸ばした高校生の行動はすごいですね。
(私は捕まえることはもちろん出来ないだろうし、捕まえよう…という発想も持てないだろうと思います。)

泥酔女性と若者の話

これは日曜の夜、京王線で自宅に帰る途中で見かけた光景です。
渋谷から井の頭線に乗り、明大前で乗り換えた私と妻は運良く比較的空いている車両に当たり、2人ともに着席することができました。
(私も妻もけっこう酔っていたので、着席できて「助かった!」という感じでした。)
日曜の夜(23時半くらいの電車だったと思います)なので、酔いつぶれてうなだれている人もちらほら…という感じでした。
私の斜め向かいに座っていた若い女性もガックリとうなだれ、電車の揺れに身を任せていました。(まぁよくある光景ですね。)
その女性のひざ上には少し大きめのバッグが置かれ、揺れる女性の膝から今にも落ちそう、という状態でした。
そして、桜上水を過ぎたあたりだったでしょうか、、とうとうバッグは女性の膝上からガタッと床に逆さまに転落してしまいました。中の荷物も幾つか床に散らばっています。
「落ちる前に何とかしてあげようよ〜」という話かもしれませんが、私は酔った妻に寄りかかられた状態で身動きとれず、、おそらく周りの方からも「落ちそう」という様子は見えたと思いますが、そこはおとなしい日本人ですね……見てみぬフリをしていたという感じでしょうか。
とはいえ落ちてしまったものはしょうがない……落ちたバッグを見つめながら「誰か早くなんとかして〜」と心の中で叫ぶ私(声には出しません、出せません……)
誰も手を出さないまま数秒の沈黙……
「ああ、この状態でもやはり見てみぬフリかぁ……」と、しばし落胆する私
が、数秒の沈黙の後、女性の右隣り、空席を挟んでもう一つ隣に座っていた若い男性がスッと立ち上がり、ササッと散乱した荷物をバッグに戻し、女性の右隣りの空席に何事もなかったかのようにそっと置きます。(これもまた数秒の出来事)
「おお、やるじゃん、若者〜」とほっこりしながら千歳烏山で下車して帰宅の途についたのでした。

神谷町の初老女性とその娘さんの話

これは妻と友人がそれぞれみかけた同じ初老の女性とその娘さんの話です。
妻も友人もその初老女性をみかけたのは神谷町の駅だったとのこと。
どんな女性かというと、人よりも少し小柄な以外は特にこれといった特徴はない普通の初老の女性。
ところが、この女性の背中には、その女性の娘と思しき20〜30代と思われる女性が背負われているのだそうです。
初老の女性はとくに小柄なこともあって、背負われている娘さんのほうが明らかに体格は大きい。
一見して分かるのは、その娘さんはどうやら重度の障害を負っているということ。おそらくは話すことも、まともにコミュニケーションすることもままならず、自らの足で立つこも叶わない……
それどころか、娘さんには明確な意識があるのかさえも分からない……そんな様子。
そんな初老の女性が娘を背負い、両手に大きな荷物を抱えて駅の階段を登ろうとしている様子を私の友人はみかけたのだそうです。
見るに見かねて友人は女性に手を差し伸べました「荷物お持ちしましょうか?」
無言の女性、そして差し出された手をやや強めに払い、そのまま階段を登り続けます。
友人の厚意は無残に拒絶されてしまったわけです……

電車やバスで席を譲ろうとして断られた……という話を聞きますが(私も断られたことあります)
それと同じで「人の厚意を素直に受け取れないって良くないなぁ……」と素朴に友人の話を聞いて感じた私でした。
ですが、この話、私の妻に言わせると「女性が厚意を断る事情も慮るべきだ」というのです。
これはあくまで妻の想像ですが、障害を持つ娘を抱えて10年20年と過ごしてきた女性はきっと様々な悪意にさらされてきたのだろう……と
隣人の厚意を素直に受け取ることが出来ないくらいには、きっと彼女は辛い現実の中で生きてきたのだろう……と

もちろん真実は分かりません。
それでも私は妻のその想像に共感しましたし、その女性の「拒絶」の理由を推し量ってあげたい、そんな想像を巡らせていたい、そう思いました。
思いやりは必ずしも素直に通じるものではないかもしれません。
それでも、私は人の事情に想像を巡らせられる人間でありたいと思いますし、それが私にとっての心の平安にも繋がるのだろうと思います。

思いやりは人に向けられるものですが、同時に自分自身にも向けられた柔らかな感情なのだと感じます。
そんな柔らかな心を持って日々を過ごしていきたい、そう思った日曜の夜でした。


特別お題「心温まるマナーの話」by JR西日本
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