フルーム驚異の走りで今大会2勝目:ツール・ド・フランス2016第18ステージ
今大会2回目の個人タイムトライアル。距離は17kmですが場所はアルプス。細かなアップダウンが連続する山岳タイムトライアルになります。
ジロやブエルタでは度々設定される山岳タイムトライアルですが、ツールでは2004年のラルプ・デュエズ以来ですから12年ぶりの実施となります。
アルプス4連戦の2日目。クリス・フルームの好調ぶりと、チームスカイの圧倒的なアシスト陣の充実が目立ったアルプス初日ですが、今日は個人TT。アシスト陣を巻き込んだ駆け引きは無用の個人TTで、しかも山岳での個人TTですから、フルームと総合上位陣のガチンコの勝負が繰り広げられます。
個人TTというと、第13ステージのトム・デュムランの圧倒的な勝利が思い出されますが、今日の山岳タイムトライアルでもデュムランがTTスペシャリストとしての実力を見せつけるのか、それとも総合上位のクライマーによるフルーム追撃が見られるのか、はたまた今日もフルームが個人でも力を見せつけるのか。コースプロフィール的には様々な展開が想像できるステージです。
しかし残念なことに今日のスタートを前になんとファビアン・カンチェラーラのリタイアという悲報……
まさか個人TTを前にカンチェラーラがツールを去るとは意外ですが、今日のTTよりもリオオリンピックへの可能性に賭けた、ということなので、ここはオリンピックを楽しみにしたいと思います。
個人タイムトライアルは総合タイムの下位からスタートしますから、マイヨジョーヌのフルームは最後の発走となります。
まず強さを発揮したのは今大会の序盤で山岳賞ジャージをまとっていたトーマス・デヘント。
さすがの登坂力を見せつけて、32分を切る好タイムでゴールします。
そして、暫定トップがデヘントのまま、今日の本命の一人、トム・デュムランの発走を向かえます。
厳しい登りを含むコースのため、タイムトライアル仕様のバイクではなく、ノーマルバイクにTTポジション用のアタッチメントを装着してレースに臨む選手が多いなか、デュムランは完全なるタイムトライアルバイクでスタートします。
たしかに最大勾配14パーセントの登りをダンシングもせずにシッティングで乗り越え、TTポジションもほぼ崩さずに走りきれるトム・デュムランにとってはTTバイクの方がこの山岳コースでもパフォーマンスを発揮できるのかしれません。
コース序盤から積極的に踏んで行ったデュムランは最終的にデヘントに40秒の差をつけてゴールします。
デヘントのタイムでもなかなか抜かれなかったところでの40秒差は圧倒的。
「登坂力のあるTTスペシャリスト」としての力量をまたしても見せつけてくれました。
さすがにこのトム・デュムランのタイムはもう抜かれないだろう……
世界中の多くの人が思ったに違いありません。が、最後の最後、最終発走者であるクリス・フルームがやってくれます。
序盤こそデュムランのタイムから遅れたものの、中盤からゴールにかけての踏み込みは驚異的でした。
今日のコースは小刻みなアップダウンを繰り返して最後の2kmは下りというプロフィールですが、どうも見ていると終盤の登りでタイムを落とす選手が多いようでした。
デュムランやリッチー・ポートも序盤での好タイムが目立ったものの、後半はタイムが伸びなかった印象があります。
そんな中「静かに、抑えてスタートした。山頂に向かって力をクレッシェンドしていくためだった」というフルームの狙いはまさに的中。
この辺の周到なシミュレーションに基づく分析はまさにチームスカイの真骨頂かもしれません。
今日の上位陣のリザルトを見てみます。
1 | クリス・フルーム | スカイ | 30' 43'' |
---|---|---|---|
2 | トム・デュムラン | ジャイアント・アルペシン | + 00' 21'' |
3 | ファビオ・アル | アスタナ | + 00' 33'' |
4 | リッチー・ポート | BMC | + 00' 33'' |
5 | ロメン・バルデ | AG2R | + 00' 42'' |
6 | トーマス・デヘント | ロット・ソウダル | + 01' 02'' |
7 | ヨン・イサギーレインサウスティ | モヴィスター | + 01' 03'' |
8 | ホアキン・ロドリゲス | カチューシャ | + 01' 05'' |
9 | ルイ・メインチェス | ランプレ・メリダ | + 01' 08'' |
10 | ナイロ・キンタナ | モヴィスター | + 01' 10'' |
結果、今日もクリス・フルームの圧倒的な「力」を見せつけられたタイムトライアルとなりました。
トム・デュムランがそこまでの暫定トップだったトーマス・デヘントのタイムを40秒差で抜き去った時には完全に「デュムラン強し!」という感じでこのタイムが抜き去られるなどとは想像しなかったわけですが、それを21秒差で塗り替えた最終走者=マイヨジョーヌの力には言葉を失います。
今日を終えての総合タイムを見てみると
1 | クリス・フルーム | チーム スカイ | 77h 55' 53'' |
---|---|---|---|
2 | バウク・モレマ | トレック・セガフレード | + 03' 52'' |
3 | アダム・イェーツ | オリカ・バイクエクスチェンジ | + 04' 16'' |
4 | ナイロ・キンタナ | モヴィスター | + 04' 37'' |
5 | ロメン・バルデ | AG2R | + 04' 57'' |
2位のモレマに4分近いタイム差をつけて残りアルプス2日。
ますますフルーム圧倒的という状況が強まってきましたが、明日明後日といずれも超級山岳が控える難コース。まだもう一波乱あるか!?
明日のツールも楽しみです。
ザカリン初勝利!!:ツール・ド・フランス2016第17ステージ
2度目の休息日を終え、いよいよアルプス4連戦に突入です。総合優勝争い、山岳賞争いもこの4日で決します。1日たりとも見逃せません。
アルプス4連戦の初日は、3級2つ1級1つを超えての超級ファンオー・エモッソンの山頂ゴール。今年のツールはここまでも山岳続きの厳しいステージが連続していたので、超級山頂ゴールといえど案外凄みを感じないのは私だけでしょうか。
昨日の休息日ですが、ここまでステージ4勝を上げていたマーク・カヴェンディッシュやBMCのTTスペシャリスト、ローハン・デニスがリオ五輪の準備を理由にツールを去りました。
カヴェンディッシュが出場するトラック競技が8/11から、ローハン・デニスが出場する個人TTが8/10ですから、もう3週間後なんですね……
ロード男子が8/7ですからツールの最終日からわずか2週間後。ツールに出場中の有力選手も多数オリンピックに出場するわけですが、ツールを終えて2週間で調整するのですからこれはもう大変ですよね。
日本人ではもちろん新城幸也選手がロード男子に出場予定です。新城選手もこのまま順調に行けば6度目のツール完走を果たして、リオに向けた調整に入るはずです。
今年の大腿骨骨折からの復帰もそうでしたが、驚異的な回復力を発揮してリオでも活躍してくれることを期待します。
さて、今日のレース展開ですが序盤でまず11人の逃げ集団が形成されます。
マイヨ・ヴェールのサガン、マイヨ・ア・ポアのマイカ(いずれもティンコフ)、第15ステージの勝者パンタノ、第15ステージは惜しかったザカリン(直近のステージで好調ぶりを見せたメンツですね)、そしてトニー・ギャロパン、ブリース・フェイユーといったフランス人が逃げ集団には含まれます。
追走集団には、アラフィリップやヴォクレールもおり、ここに来てフランス勢の奮闘が目立つように感じられます。
ツール開催国フランスですが、今大会ではここまでフランス人選手のステージ勝利がありません。
このままステージ勝利無しで終わると実に「95年ぶり」とのことで、ここに来てその話題が現地でも増えてきているそうです。
最新のUCI国別ポイントランキングではフランスはスペイン、コロンビアに次ぐ3位と実は好調なわけですが、今ツールでは残念ながら勝利には至っていない。残り5ステージですから俄然フランス人選手のプライドをかけたアタックが随所で見られるかもしれません。
今日もそうですが、ここに来て連日逃げに参加しているアラフィリップ(第15ステージはメカトラに泣いたわけですが)には是非とも結果を出して欲しいし、ロメン・バルデやピエール・ローランといったフランス人クライマーにはアルプスでの奮起に期待したいです。
逃げ集団は淡々と3級山岳2つと中間スプリントポイントを通過していきます。
カヴェンディッシュが去った今、マイヨ・ヴェールはサガンが圧倒的ですし、山岳賞もマイカに抜けてきた感があります。
エースであるコンタドールがリタイアした後でも、しっかりチームとしてのプレゼンスを発揮して結果を出すティンコフの力には脱帽です。
一昨日のサガンのステージ勝利の際はオーナーのオレグ・ティンコフさんの歓喜に踊る姿が中継されていましたが、あんなに楽しそうにしてるオーナーがいて、ここまで素晴らしい成果を上げているチームや選手がいて、それでも来季はチーム解散してしまうというのが本当に信じられない気持ちです。ツールのチームプレゼンテーションでも一番楽しそうな雰囲気を感じたのはティンコフだったので余計に残念です。
途中、1級山岳でトニー・ギャロパンとアレクセイ・ルツェンコがアタックしますが、こちらは実らずに1級山岳はマイカが先頭で通過します。そして超級ファンオー・エモッソンの上りへ……
1級山岳のダウンヒルで抜け出したラファル・マイカとハリンソン・パンタノ、そこに超級の登りでイルヌール・ザカリンが追いつきます。
マイカとパンタノの並走……そしてそこにザカリンが絡む
まるで第15ステージの再現というかリベンジ的な展開になってきました。
但し、第15ステージと違うのは今日は山頂ゴールということ。
登りに関してはパンタノが若干劣るのかなぁ、、という印象でしたが、なんと先に遅れだしたのは山岳賞ジャージのマイカ!
ザカリンのアタックに全く反応できずにあっという間に遅れてしまいます。(まぁマイカとすれば今日も1級3級と山岳ポイントは順調に積み増しできたので良し…とすることもできるのかもしれませんが、またしてもステージ優勝のチャンスをものに出来ず…)
ザカリンとパンタノ、となるとやはり登坂力はザカリンが優位。
何度かアタックを仕掛けたかと思えば、途中からは一定出力でグイグイ踏み出し、力勝負に打ってでます。
自力の違いを見せつけられた格好で、徐々に差を広げられるパンタノですが、それでも必死にダンシングをしながら食い下がろうとします。(さすが男気のパンタノ!)
とはいえ自力に勝るザカリンが最終的にこのステージをものにして、ツール初勝利!!
ポストフルームのオールラウンダーと評されるザカリンですが、これで昨年のジロに続いてグランツールでは2賞目となります。
先月のジロでの大落車からの復活!
26歳のまだ若いオールラウンダーですから、これからの活躍に益々期待です。
一方の総合争いはというと、今日もまたアスタナが積極的にメイン集団をコントロールし、スカイに一矢報いようという展開。
問題はこれにモビスターがこれまで共闘できていない点ですが、今日も超級に達した地点でメイン集団にはバルベルデとキンタナの2人だけ、という厳しい展開。
今日のスタート前に「モビスターは必ず攻撃する!」とウンスエ監督は豪語していたようですが、、どうもバルベルデ以外のアシストのパフォーマンスが本来のものではなさそうですし、肝心なエースのキンタナも精彩を欠く印象。
今日は辛うじてバルベルデが何度かスカイ勢に対してアタックを仕掛け、アシストを何人か削ることに成功したのが精一杯という感じで、キンタナ自身の攻撃は見られませんでした。
メイン集団からは最終的にリッチー・ポートが抜け出し、それに反応したクリス・フルームが追従するという展開。
今年からスカイを離れBMCへ移籍したリッチー・ポートですが、チームを分かれても尚フルームを牽引する姿は感慨深いものがありました。
ポート、フルームを追うアダム・イェーツ、バルベルデ、ファビオ・アルの追い上げも届かず、ポート、フルームが先着。
キンタナに至ってはイェーツらのグループからもさらに遅れをとり、フルームからは28秒をさらに失う結果となりました。
アルプスでのキンタナの巻き返しが期待されたわけですが、結局はフルームの安定感だけが鮮明になった今日の総合争いでした。
明日はいよいよ山岳での個人TT。
TT巧者のフルームがさらにタイムを稼ぐのか、モレマ、イェーツ、キンタナの巻き返しがあるのか。
そしてフランス勢のステージ優勝は残り4ステージで果たせるのか。
各ジャージの行くえはだいぶ見えてきたようにも思えますが、それでもまだまだ見所は盛り沢山のツール。明日も楽しみです!!
果敢に逃げた2人にW敢闘賞!:ツール・ド・フランス2016第16ステージ
今大会2度目の休息日を翌日に控えた第16ステージは最終21ステージを除くと最後の平坦ステージ。休息日を挟んだ明後日からはアルプス4連戦に入るとあって、今日はスプリンターにとっては是が非でも勝ちたいステージ。
そして今シーズンでの引退を表明しているファビアン・カンチェラーラにとっては地元スイスのベルンがゴールに設定された、まさに引退の花道を飾る凱旋ステージとなります。ここまで目立った活躍のないカンチェラーラがどんな走りをみせるのか見ものです。
4級山岳を1つ含むものの、概ね平凡な平坦ステージ……と思いきや、ラスト2.5kmは勾配6〜7%の坂道が連続する上に、石畳というピュアスプリンターには少々厳し目のステージ。
「登れるスプリンター」「スプリント力のあるパンチャー」によるゴールスプリントか、もしくは「クラシックハンター」によるロングスパートといった決着が予想されます。
前者であれば、ペーター・サガンやジョン・デゲンコルブ、といった名前を挙げられますし、後者であればヴァンアーヴェルマートや、「地元凱旋の」ファビアン・カンチェラーラといった名前が挙げられるでしょうか。
いずれにしても単純なゴールスプリントとはならなそうな本ステージです。
今日逃げを決めたのは、ジュリアン・アラフィリップとトニー・マルティンのエティクス・クイックステップ勢。
昨日のメカトラブルで苦渋をなめたアラフィリップがその鬱憤を晴らすように逃げに逃げます。
トニー・マルティンにしても今大会ではここまで目立った活躍がなかったので、今日の逃げには気合いが入ります。
2人の逃げは残り100km地点から残り25km地点までのおよそ75km余り。
平坦コースでしかも2人キリの逃げで75km余りを逃げ続けたアラフィリップとトニー・マルティンの2人の執念には見ている方も思わず応援したくなる気迫があります。
結果、今日の敢闘賞はなんとアラフィリップとトニー・マルティンの2人に与えられる例外措置!
逃げのうち7〜8割はマルティンが引いていたように思いますし、最後の最後まで逃げ続けたのもマルティンなのでマルティンに敢闘賞かな……と思っていたわけですが、まさか2人に授与とは!!
ひょっとしたら今日の走りに加え「前日のメカトラのリベンジに燃えるアラフィリップ」というストーリーも込みでの2人受賞ということだったのかもしれません。
残り25kmでアラフィリップを、残り23kmでマルティンを吸収したメイン集団はその後ルイ・コスタが逃げる瞬間もありましたが、最終の石畳区間までにルイ・コスタも吸収され、メイン集団がそろって石畳に突入という状況。
石畳で且つ上りの連続で、コーナーも多くテクニカル、、という幾重にも難しさが折り重なったような市街地コースで集団は徐々に絞りこまれていきます。
そんな中、いい位置でゴールスプリントに辿りついたのは、アレクサンドル・クリストフとペーター・サガンというクラシック巧者なスプリンターの2人。
その後方には前日も4位と徐々に復活しつつあるジョン・デゲンコルブや地元でのステージ勝利を狙うファビアン・カンチェラーラが続きます。
ゴールスプリントでは積極的に前に出るクリストフとその後方に張り付くサガン、という構図。
スプリントの流れ的にはクリストフがそのまま行ってしまいそうな気配もあったものの、最後の最後でゴールにバイクを投げ出したサガンの数cm差の勝利。
去年あれだけ勝てずに2位が続いていたサガンはどこへ行った??と言いたくなるようなステージ勝利の連続(既に今年はステージ3勝)
昨年、世界チャンピオンになり、結婚もしたことで特にメンタルでの強さや、運をたぐり寄せる「引き」の強さが出てきたのかなぁ、と想像。
明日の休息日を明けると明後日からはいよいよツールも最後の難関、アルプス4連戦へと突入します。
いよいよ総合争いも最終盤となり、フルーム、スカイ勢にライバル各チームがどのような攻撃を繰り出していくのか。
これまで圧倒的な強さをみせているスカイですが、そこはツール・ド・フランスのこと、「何が起こるかは分かりません。」
予想外の展開でアルプスステージが盛り上がることを期待します。
パンタノ男気のダウンヒル勝利!!:ツール・ド・フランス2016第15ステージ
超級1つ、1級2つ、2級1つに3級2つ……等級がついている山岳だけでも6つの山岳を超える難関ステージ。終盤に位置する超級と1級のダウンヒルも見どころとなりそうです。
今日のステージを終盤までリードしたのは、山岳賞を目指すラファル・マイカと、ジロでの大落車から復活したイルヌール・ザカリンの2人。
最初の1級山岳を前に抜け出した2人。(最初の1級はマイカがトップ通過し山岳ポイントを獲得していきます。)
その後、ヴィンチェンツォ・ニーバリが引く追走集団に吸収されるものの、終盤の超級を前に再度マイカ、ザカリンの2人が抜け出します。
衝撃的な落車でリタイアしたジロから、鎖骨と肩甲骨の骨折を治して復活したザカリン。あまりに酷い落車だったのでてっきりツールには間に合わないだろうと思っていたら、しっかり治して、しかもツールでステージ優勝争いをしている……
新城幸也しかり、デゲンコルブしかり、一流選手の驚異的な回復力は常人の理解を超えるとというか、そうした回復力なくして、グランツールは戦えないんだなぁ、と感じます。
超級グラン・コロンビエをトップで通過したマイカ、ザカリンですが、山頂通過後のダウンヒルでジュリアン・アラフィリップ、ハリンソン・パンタノの2人が一気に差を詰め、マイカに追いつきます。
一方でザカリンはダウンヒルで今一つスピードが出せずに一人遅れてしまいます。(やはりジロのダウンヒルで落車したイメージが残っているのでしょうか……*1)
今日のダウンヒルでおそらく一番早かったのはジュリアン・アラフィリップ。今大会序盤ではマイヨ・ブランを着用し、フランスの期待を担うヤングライダーですが、中盤以降は調子を崩し精彩を欠いていましたが、今日は攻める攻める攻める。
超級グラン・コロンビエのダウンヒルではマイカ、パンタノを寄せ付けずあっという間に差を広げていきます。(これが若さ故の恐れ知らずというか、なんというか)
上りの追走でも一人テンポの違う上りを見せていたアラフィリップでしたから、このまま逃げ切ってしまうのか!?とも思えました。
が、あれ、アラフィリップが止まってる!!
残念すぎるメカトラブルでした。せっかくダウンヒルで置き去りにしたマイカ、パンタノに抜かれ、遅れていたザカリン、ヴュイエルモーズらのグループにも抜かれてしまいます(およそ1分半のロス……痛恨です。)
この後タイム差を詰めて、最終的にはトップから22秒遅れの5位だったことを考えると、本当に「痛恨のメカトラブル」でした。
アラフィリップのメカトラブルもあってトップに出たマイカ、パンタノは揃って最後の1級山岳にかかります。
今日ここまでのダウンヒルではパンタノがマイカを上回っている印象。案の上、山頂を前に早々にマイカはアタックをかけます。
山頂でのパンタノとのタイム差はおよそ20秒……
これまたあっという間でした。ダウンヒルに入るとみるみるマイカとパンタノの差は詰まり、下りきる手前で完全にマイカを捉えます。(マイカのダウンヒルも決して遅くはなかったはずで、パンタノのダウンヒルが凄かったという感じ。)
ダウンヒルはもちろんテクニックの差もあるのですが、よく言われるのはメンタルの差(というかどこまで恐怖心を律することができるか)ということ。
今日のマイカとパンタノでいうと、すでにツール勝利経験もあり、且つ今日だけで山岳ポイントを50ポイントも獲得して大きく山岳賞を手繰り寄せたマイカと、一方でツールではもちろんまだ勝利なく、コロンビア出身のハングリーさのあるパンタノの方がモチベーションの点でマイカを上回っていたのかもしれません。それがダウンヒルの差となり、ゴールスプリントでの「執着」の差として表れたのかもしれません。
(もちろん山岳ポイントを獲得するためにマイカが相当に足を使っていたということもあります)
コロンビア旋風と言われて久しいロードレース界ですが、今日また新たなコロンビアのヒーローが誕生しました。
ハリンソン・パンタノ。本当に執念というか気持ちでステージ勝利を勝ち取りましたね。
一方のコロンビアヒーローの本命、ナイロ・キンタナは今日も目立ったアタックはなく……
総合争いではティージェイ・ヴァンガーデレンがタイムを失った以外は大きな展開はありませんでした。
今日は既に総合争いからは後退したアスタナがなぜかメイン集団を牽引する動き。アスタナの引きでスカイのアシスト陣が若干削られる展開はあったものの、そこに乗じてのモビスターの攻撃はバルベルデが散発的にアタックを仕掛けたのみ。
キンタナの調子が今ひとつ上がらないように見えるモビスターですが、アルプスでは何か起きるのか。キンタナのとフルームのタイム差はおよそ3分。フルームの調子が良いだけに、これから3週目でどんな展開が待っているのか。個人的にはもう一波乱を期待してしまいます。
カヴェンディッシュ4勝目!!:ツール・ド・フランス2016第14ステージ
連日厳しい戦いが続き、アクシデントにも見舞われた今大会ですが、今日は平和なレース展開が期待できそうな4級山岳3つを含む208.5kmの平坦ステージです。
連日強風に見舞われているツールですが、今日も風は強め。一見平凡な平坦ステージに見えますが、横風分断を狙った駆け引きもありそうで気は抜けないか……
と思ったのも結局は杞憂で、今日の風はほぼ向かい風……途中のわずかにあった横風区間でスカイの牽引などによって集団が縦長になったり、小さな分断は起きたものの、おおよそメイン集団にとっては「平和」な1日として終わりました。
全21ステージの間で休息日はわずか2日(数年前までは1日しかなった……)3週間にわたって連日150〜200kmを走るわけですから、途中に幾つか「やさしめのステージ」もあるべきですよね。
特に近年のツールでは有力チームによる厳しい「位置取り争い」があったり、単純な平坦ステージでもなかなか気を緩められるステージが減ってしまっているように思えます。
殊に、今年のツールは序盤から難しいステージが続き、観ている側からしたら毎日激しいレースが観られて面白い反面、選手にとっては消耗も激しいでしょうしバランスは難しいですよね。
序盤で難しいステージが多かったわりにリタイアが少ない……という声が上がっていた今大会ですが、さすがに第13ステージを終え中盤も過ぎるとリタイアする選手も増えてきています。
ここまででリタイアした主な選手を挙げると……
- アルベルト・コンタドール
- マーク・レンショー
- ティボ・ピノ
- ユルゲン・ヴァンデンブロック
- サイモン・ゲランス
など。
コンタドール、ティボ・ピノのリタイアは特に残念ですね。そしてこの2人は結局オリンピックにも出場しないようで、それもまた残念なニュース……
トニー・マルティン、ファビアン・カンチェラーラと、マイヨ・ジョーヌのリタイアが相次いだ昨年のツールに比べると今年は随分リタイアが少ないのはやはり印象としてありますし、残りステージでも激しい戦いは期待しますが、一方でリタイアによって勝利が決してしまうような結果は見たくありませんので、このまま順調に今後のステージが進行していくことを望みます。
さて、今日のレース状況に話を戻しますと、上述したようにメイン集団での大きな動きはなく、逃げも少人数のグループの無難な逃げに終わり、結果としては予想通りのピュアスプリンターによるゴールスプリントに雪崩れ込む展開。
ゴール前2〜3kmはエティクス・クイックステップ、カチューシャ、ディメンションデータといった有力チームがそれぞれトレインを組んでゴールスプリントに備えた位置取り争いを繰り広げます。今日誕生日を迎えたアンドレ・グライペルも集団前方の位置をキープ。久々に綺麗なゴールスプリントで迫力が凄い!!
ラスト300m、アシストから発射されたキッテルがスパート。カヴェンディッシュはキッテルの後方に着け、グライペル、クリストフ、サガンらが反応します。そして今回のスプリントにはここまで活躍のなかったジョン・デゲンコルブの姿も!!
ラスト300mでのスパートはキッテル若干早いか……という印象でしたが、ラスト150mでキッテルを交わして先頭に立ったカヴェンディッシュが今大会4勝目!!(完全に勝利量産体制…といった感じになってきました)
極端に低い姿勢で踏み込み、最後の最後にライバルを交わして勝利するカヴェンディッシュらしい切れ味鋭いスプリントが戻ってきた今大会はスプリントの面白みも増したように個人的には感じます。
そして今日嬉しかったのはこれまで怪我の影響もあって活躍のなかったジョン・デゲンコルブが4位に食い込んできたこと!
この事故によって、あわや左手人差し指を欠損…というような負傷を負ったデゲンコルブ。
今も指はほぼ曲がらない状態らしいですが、それでも勝負を続けるデゲンコルブの姿は本当に胸を熱くさせてくれます。
さて、明日からはまた厳しい山岳ステージに突入します。
フルームがこのまま優勝をたぐり寄せていくのか、ナイロ・キンタナ擁するモビスターがどんな攻撃をスカイに仕掛けていくのか、或いはアダム・イエーツのさらなる進化を目にすることができるのか。これから終盤の戦い…ますます目が離せません!!
圧勝トム・デュムラン!個人TTの結果:ツール・ド・フランス2016第13ステージ
今大会で2回設定されている個人タイムトライアルの1回目。37.5kmと長めのコースでアップダウンもあり、TTスペシャリストとオールラウンダーのステージ優勝争いが見られそうです。
個人TTなので、トニー・マルティン、ファビアン・カンチェラーラ、ヴァシル・キリエンカといった歴代TTチャンピオンのいずれかがこのステージを制するのか、TT巧者のオールラウンダー、クリス・フルームやヴィンチェンツォ・ニーバリが上り区間で優位性を発揮するのか、ステージ優勝の行方がまず気になるところ。
それでいうと個人的に圧倒的に押したいが、トム・デュムラン。
今大会でも第9ステージを制して、調子も良さそうですし、去年のブエルタで開花した「クライマー」としての強さも今日のコースには向いているように見えます。
さて、解説や感想を後回しにして、先に本ステージの主要選手のリザルトを見てしまいます。
1 | トム・デュムラン | 50' 15'' |
---|---|---|
2 | クリス・フルーム | + 01' 03'' |
3 | ネルソン・オリヴェイラ | + 01' 31'' |
4 | ジェローム・コッペル | + 01' 35'' |
5 | ローハン・デニス | + 01' 41'' |
6 | バウク・モレマ | + 01' 54'' |
7 | ゲラント・トーマス | + 02' 00'' |
8 | ヨン・イサギーレインサウスティ | + 02' 02'' |
9 | トニー・マルティン | + 02' 05'' |
10 | スティーブ・カミングス | + 02' 24'' |
13 | エドヴァルド・ボアッソンハーゲン | + 02' 34'' |
15 | アレハンドロ・バルベルデ | + 02' 48'' |
16 | ティージェイ・ヴァンガーデレン | + 02' 50'' |
18 | アダム・イェーツ | + 03' 01'' |
20 | ナイロ・キンタナ | + 03' 08'' |
21 | リッチー・ポート | + 03' 08'' |
23 | ファビアン・カンチェラーラ | + 03' 15'' |
25 | ヴィンチェンツォ・ニーバリ | + 03' 29'' |
37 | ファビオ・アル | + 04' 25'' |
まず何と言っても目立ったのは、トム・デュムランの圧倒的な強さ!
2位のフルームに1分以上の差をつけての勝利は異次元の強さと言っても良いかと思います。
そもそも2014年の世界TTでは3位に入ってますし、今日もオランダチャンピオンジャージを着ての走りですから、現役でも屈指のTTスペシャリストであることは言うまでもありません。それに加えて近年の登坂力の向上、勝負強さは目を見張るものがあります。
個人的にはグランツールの総合優勝を目指すような選手に進化していって欲しい、最も期待する「次世代の主役」と思っています。
次にファビアン・カンチェラーラやトニー・マルティンが全くと言っていいほどに奮わなかった点も印象的でした。
かつて圧倒的な強さを見せたファビアン・カンチェラーラも今年で現役引退……
昨年はマイヨ・ジョーヌを獲得する「強さ」を見せたカンチェラーラも、引退表明後の今大会ではここまで見せ場もなく、淡々と走っている印象。
今日のタイムトライアルでは何かを見せてくれるのでは、と期待もしましたが、結果はトップから3分以上遅れての23位と寂しい結果に終わってしまいました。
一方のトニー・マルティンも今大会ではここまで見せ場なく、今日もトップから2分遅れの9位。
これまでのステージで落車もありましたし、やはり本調子ではないのかもしれません。
こちらは今年のオリンピックでの復活を期待して待ちたいと思います。
総合争いは……というと、結果的にはまたしてもクリス・フルームのステージでしたね。
トム・デュムランからは1分遅れたものの、それでもステージ2位。総合優勝を争う、アダム・イェーツやナイロ・キンタナには2分のタイム差を稼ぐことになりました。
昨日の「事件」があっても尚、この強さ。やはり凄い選手です。
一方のアダム・イェーツやナイロ・キンタナの立場から見た場合は「2分差で済んだのでOK」という考え方もできるかもしれません。タイム差は別としてアダム・イェーツがステージ18位、ナイロ・キンタナがステージ20位と、不得手であるはずの個人タイムトライアルでのこの結果は2人にとっては「上々の出来」ともいえるかもしれません。
クリス・フルーム優位という状況になってきたものの、まだまだツールも中盤。今後のアダム・イェーツやナイロ・キンタナの後半戦での「攻撃」に期待したいと思います。
余談:
前日のニースでの事件を受けて、今日の表彰式では各選手共に喪章を着けてのセレモニーとなりました。
レース前の選手インタビューでも多くの選手が事件に触れ、複雑な心境を述べています。
近年、ロードレースもアフリカ系やアジア系の選手が増えてきたり、ますますワールドワイドなスポーツに拡大しつつあります。ロードレースは国籍や人種や宗教の差もなく、皆ゴールを目指して時にはチームの垣根さえも超えて協力していく「理性的であり紳士的なスポーツ」です。
様々は背景を持つ選手が協力して走る姿に我々は感動を貰っています。暴力によってそうした感動が阻害されることはあってはならない。大会関係者、選手、各チーム関係者が一丸となってツールを続行し運営されていることに感謝し、これからも全力で応援したいと思います。
波乱のモン・ヴァントゥ:ツール・ド・フランス2016第12ステージ
「魔の山」モン・ヴァントゥの頂上ゴールが設定された第12ステージ。フランス革命記念日とあって、フランス勢の活躍が気になるステージです。
今日の「あの事件」は後で触れます……
まずは天候の話。前日のステージから強風で荒れ模様だったツールですが、今日のモン・ヴァントゥ山頂もやはり荒れていました。
最大で時速110kmの猛烈な突風が吹きすさぶ山頂のゴールはさすがに安全を考慮して、その手前6km地点に急遽ゴールが設定し直されます。(これが「あの事件」の原因の一端ともなってしまったわけですが……)
レースは「6km短くなったモン・ヴァントゥのゴール」を目指して10人以上の逃げ集団が形成され、最大で19分もの差をつけることに成功します。
メイン集団はというと昨日と同様に強風を活かしての横風分断を狙ったエティックス・クイックステップなどのアタックが仕掛けられ、徐々に人数を減らしていきます。結果、逃げグループとのタイムは一時7分差まで詰まります。(このタイム差なら最後の上りを考えると逃げきりは厳しいか……)
そんな中、残り35km地点でスカイのアシスト数人を巻き込んだ落車が発生します。
さすがにフルームもここでアシストが離脱するのは避けたい……自ら下がってチームメイトを集団に引き上げます。
結果、集団としても(道義的に)マイヨ・ジョーヌを置き去りにするわけにもいかず、フルームの集団復帰を待ちます。
そんなこんなしているうちに結果的に逃げ集団の逃げきりの確率が一気に上がります。
モン・ヴァントゥの上りを前に逃げ集団で最初に動いたのはアンドレ・グライペルでした。
世界屈指のスプリンターも今日はチームメイト、トーマス・デヘントのためにアシストに徹して走ります。
逃げグループから先行して、逃げグループのライバルに攻撃を仕掛けます。
年々「上れるスプリンター」としての評価が高まるグライペルですが、この上り区間でエースのアシストを務めるとは、驚きです。
グライペルのアシストもあってか、モン・ヴァントゥの上りに差し掛かったところでまずアタックをかけたのはトーマス・デヘント。
そこにダニエル・ナバーロとセルジュ・パウエルスが続きます。
途中、ナバーロとパウエルスに先行を許すものの、しっかりとペースを刻んで足を温存したデヘント。
残り5kmで先行する2人を捉え、最後の100mでは猛烈なスパートをかけ勝利!!
ステージ優勝と山岳ジャージ、さらには敢闘賞にモン・ヴァントゥ覇者の称号までを手に入れたトーマス・デヘント。
デヘントにとっては選手生活で最高の1日となったのは間違いないですね。(いや、しかし今日のデヘントは強かった。)
さて、逃げ集団を結局捉えきれなかったメイン集団ですが、総合の有力選手の間では熾烈な争いが繰り広げられます。
まず攻撃を仕掛けたのはアレハンドロ・バルベルデ。単独でアタックを仕掛け、チームスカイのアシスト陣を削りにかかります。
そしてバルベルデが集団に戻ると間髪入れずに今度はナイロ・キンタナが攻撃に出ます。
しかし、今日のキンタナのアタックには切れ味が足らず、決定的なアタックにはなりません。
そんなモビスターの攻撃をかわすと、今度はなんとフルーム自らが単独でアタックに出ます。そしてこのアタックが威力絶大!!
全くキンタナは着いていけず、フルームのアタックに追従できたのはバウク・モレマとリッチー・ポートの2人だけ。
キンタナが来れないと見るや、フルームはまた一段ギアを上げます。凄い迫力で登っていくフルーム、モレマ、ポート。
残り距離を考えるとこのまま3人が逃げて、今日もまたフルームがタイムを稼ぐのか……と思った矢先でした。
『あれ??落車??』しかもどうやら落車はこのアタックしたフルームグループらしい??
しかし、なかなか映像はフルームを捉えることが出来ません…… どうも観客が多すぎてカメラが辿りつけないらしい…一体どうなってるだ!?
そして、ようやくカメラがフルームを捉えます。
.@ChrisFroome à pieds dans le final de l'étape / @ChrisFroome is running in le Ventoux ? #TDF2016https://t.co/o3fgyrRRST
— Le Tour de France (@LeTour) 2016年7月14日
え?え??えええ???
なぜ、マイヨ・ジョーヌが走っている?バイクはどうした?一体何があったのか??
うわー、まじか
冒頭でも書いたように、今日のモン・ヴァントゥは強風のため急遽ゴールが6km手前に移動となりました。
結果、本来はゴール手前2〜3kmに随所で設置されるはずだった観客を制限するためのフェンスはほとんど設置されず、しかもゴールまでの区間が短縮されたことで予想以上の観客がゴール手前の数kmに渡って溢れていました。
そんな中、観客に進路を塞がれて急停止したカメラバイクにモレマ、ポート、フルームが相次いで追突…… 結果、フルームのバイクは故障。代わりのバイクに乗り換えるにもサポートカーも観客に阻まれて待てども来ず。いてもたってもいられずにフルームは自分の足で走り出した……というのが上記の光景でした。
観客にぶつかって落車……という事故は最近のロードレースでは時折見かけるものですが、今日のように観客に完全にコースを阻まれるような状況や、ましてやマイヨ・ジョーヌがバイクにも乗れずに走りだす姿などは想像も及ばないような異常な光景でした。
結果的にはこの事故によるロスがタイムに影響出ないように裁定が下ったものの、明日以降の走りに影響ないか心配です。
📸 @veloimages pic.twitter.com/XBbLmeBSxs
— Chris Froome (@chrisfroome) 2016年7月14日
Still in the #YellowJersey #TDF
— Chris Froome (@chrisfroome) 2016年7月14日
しかし、この状況でもレースを捨てず、怒りを露わにすることもなく、マイヨ・ジョーヌらしく毅然と走りきったクリス・フルームは本当に偉大な選手だと再認識されられました。
Still in the #YellowJersey
この状況でもジョークをツイートできる精神力にも脱帽です。
明日は37.5kmの個人タイムトライアル。総合争いでも重要なステージが連日続きます。
この精神力でクリス・フルームが明日どんな走りを見せるのか、楽しみです。
サガン×フルームの最強タッグ!:ツール・ド・フランス2016第11ステージ
全21ステージのツール・ド・フランスも折り返しの第11ステージです。
162km、途中2つの4級山岳はあるもののやや短めの一般的な平坦ステージという感じの今日のコースプロフィールですが、問題は天候。
この辺は山から吹き降ろしてくる強風で知られる地域とのこと。
一見、平凡な平坦のピュアスプリント勝負と見えるステージですが、天候次第では横風による集団の分断で思わぬタイム差がつくかもしれません。
案の定、今日は序盤から落車が連続……ラファル・マイカなどが落車の餌食になってしまいます。
そして、強風の中、ティンコフやトレックが横風分断を狙ったアタックを繰り返し、集団は徐々に絞られていく展開。
横風といえばこの人、「横風番長」こと、マッテオ・トザットも活躍します。
今日逃げを決めたのは、トリコロールジャージを纏ったフランスチャンピオン、アルテュール・ヴィショとリー・ハワードの2人。
革命記念日を明日に控えてのフランス人の逃げは現地では大盛り上がりだったことでしょう。
逃げは残り60km地点で早々に吸収され、その後も集団はティンコフやスカイが引く展開。
追い風基調の風とのことで、独走力のあるTT系の選手がロングスパートをかけるのでは…… という予想もありましたが、残り20kmまでは強風の中、ピリピリした雰囲気の中で大きな展開はなくレースは進みます。
そんな状況を一変されたのは、なんとペーター・サガン。
残り11kmで縦長になった集団の先頭にいた、マチェイ・ボドナールとペーター・サガンのティンコフ勢がここぞとばかりにアタックを仕掛けます。
そして、そのアタックに反応して飛び出しのが、これまたなんと、クリス・フルームとゲラント・トーマスのスカイ勢。
あっという間に4人の逃げグループが形成され、集団から10秒以上差を付けます。
思えばずっと集団の先頭付近に位置していたペーター・サガン……アタックをかけるチャンスを窺っていたのですね。この勝負勘、さすが才能の塊、ペーター・サガンといったところでしょうか。
そして、そのアタックに絶妙なタイミングで反応したフルーム。どうやらこちらは本当に偶然にその位置にいたようですね。(もちろん横風対策で集団の前方に常に位置取っていた状況ではありましたが。)
さすがに、サガン、ボドナール、フルーム、ゲラント・トーマスの4人の逃げは迫力があります。
ステージ勝利とポイントを積み上げたいサガンと総合系のライバルからタイム差を稼ぎたいフルームの完全に利害が一致した結果の共闘が見事にハマりましたね。(しかもこのメンツ!)
昨日のオリカ・バイクエクスチェンジの「チームプレイ」もロードレースの醍醐味ですが、今日の「チームを超えた駆け引きの妙」もまたロードレースの醍醐味かもしれません。
加えて言えば、このタイミングでこの4人が逃げに揃ったという「偶然」、追い風基調の「天候」といった要素もまたロードレースに面白さを与えている要素と言えます。
結果、4人の逃げを集団は捉えることが出来ず、マイヨ・ヴェール(サガン)とマイヨ・ジョーヌ(フルーム)のワンツーフィニッシュ。
サガンは今大会ステージ2勝目、フルームも僅かではありますがライバルからタイム差を稼ぐことに成功しました。
今日もそうですが連日、様々な展開が巻き起こる今回のツール・ド・フランス。
明日はフランス革命記念日で、しかも舞台は超級モン・ヴァントゥの山頂ゴールとあって、またしても波乱のドラマを観ることができるかもしれません。
(余談)今日は京都の本社に出張だったのですが、ロードレース好きな数名でスクリーンにJ-SPORTSオンデマンドの映像を流しながらの観戦でした。大画面最高!!
オリカのチーム力が光る!:ツール・ド・フランス2016第10ステージ
コンタドールがリタイアしても、ツールは続きます。今日は第10ステージ。
コンタドールのリタイアから休息日を挟んでの第10ステージ。
スタートから24kmで標高2408mの1級山岳ポール・ダンヴァリラの山頂をむかえ、そこからは標高差2000mを一気に下る、という特徴的コース。
(ちなみに標高2408mは今大会の最標高。)
ただしダウンヒルを終えてもまだ100km近い下り基調の平坦コースが待っているので、基本的にはスプリンター向けのステージです。
J-SPORTSの放送が始まった段階では既に1級山岳はとっくに超え、ダウンヒルも終盤といったところ。
驚異的なペーター・サガンのダウンヒルを見られなかったのは残念。
この下りで逃げを決めたのは超豪華なメンバー。
サガン、ニーバリ、ルイ・コスタ、ボアッソンハーゲン、ヴァンアーヴェルマート、シャヴァネル、マイケル・マシューズ、ミケル・ランダ、トニー・ギャロパン、スティーブ・カミングスなどなど
今大会は豪華な逃げグループが多いですね。
豪華な逃げグループとはいえ、残り100km近くあるし正直最後はメイン集団に吸収されるんだろうな……と思って見ていたのですが、これが意外に差が詰まらない。
逃げグループにサガン、ボアッソンハーゲンを送り込むことに成功した、ティンコフ、ディメンションデータは敢えてメイン集団を引くことはありませんし、キッテルは序盤の山岳で遅れてしまったのかエティック・クイックステップも引かず。
結果的にメイン集団を長々と引くことになったのはブライアン・コカールにスプリント勝負させたい、ディレクトエナジーのトマ・ヴォクレール。
舌を出し、ベロベロしながら体を揺らして走る姿はトマ・ヴォクレール独特のもの。
ヴォクレールといえば、いつも集団の最後方を「定位置とばかりにゆっくり走るのがお案じみですが今大会ではブライアン・コカールのために集団を牽引する姿が目立ちます。
とはいえヴォクレールが孤軍奮闘しても逃げる豪華グループとの差はつまりません。
トップグループが残り30km近くになっても4分差が縮まらない!
(これは逃げ切り決まりっぽい)となると、メイン集団も追うのを諦めてしまいました。今大会、逃げ成功の確率が例年になく高いのは何故なんでしょうね…… まぁ観る側からすると逃げが成功するのは面白いので歓迎なわけですが。
そうなると俄然、今日のステージはサガン勝利か…… という気配が漂ってくるわけですが、それでも逃げグループにはサガンの他に、ボアッソンハーゲン、マイケル・マシューズ、といったスプリント強者もいるし、ヴァンアーヴェルマートが独走力を活かしてロングスパートする可能性もあるし、まだまだどうなるか分からない。
しかもマイケル・マシューズのオリカ・バイクエクスチェンジには、ルーク・ダーブリッジとダリル・インピーという強力アシストが2人も残っているし。(ここに来てオリカは勝負してきた感じですね)
逃げグループはマイケル・マシューズのためにルーク・ダーブリッジが献身的に牽引を続けて最後の3級山岳の上りへ。
やはりここでは "上れるスプリンター" サガンがアタックをかけますが、ことごとくダリル・インピーがチェックして、逆にアタックをし返す展開。。もう完全にサガンの足を削りにかかっているインピーなわけですが、それにことごとく反応するサガン。
ダーブリッジの引きからのインピーの猛烈なサガン攻撃……
正直ここまでアシスト陣が完璧な働きをしたらエースとしては勝たないわけにはいかないですよね。
個人的にはオリカ対サガンの争いを完全に静観する様子でグループの最後尾に張り付いていたヴァンアーヴェルマートがどこでアタックをかけるのか……と思って観ていましたが、特に変化は見せずにレースはサガン、マシューズ、ボアッソンハーゲン、ヴァンアーヴェルマートの4人によるゴールスプリントになだれ込みます。
そして、やはりインピーの攻撃でだいぶ足を使わされたサガンは最後の最後で伸びず、マイケル・マシューズがサガンをかわして勝利!!
いやぁ、サイクルロードレースは「チームスポーツ」なんだなぁ、とあらためて印象付けられたオリカの3人の動きは本当に素晴らしかったです。
突出したエースのいないオリカやランプレといった中堅チームが、今日のステージのように「チーム力」で勝っていくのを見るのもロードレースの醍醐味ですね。
オリカといえば、マイヨ・ブランのアダム・イェーツの活躍も光りますし、今日の勝利でチームとしても勢いを増していくでしょうから、これから残りのツールを盛り上げてくれるかもしれません。
コンタドール去る…ピレネー最難関ステージ:ツール・ド・フランス2016第9ステージ
ツール・ド・フランス2016は第8ステージ、休息日前の今日は超級アルカリスの山頂ゴールという、いよいよ熾烈な総合争いが期待できる今大会でも屈指の注目ステージ。
超級アルカリスに、1級3つ、2級1つという今大会のピレネーでは最も難易度の高いステージで、しかも超級の山頂ゴールとあって、これはもう完全に総合勢の熾烈な争いがみれそうなコースプロフィールとなっています。
レースは今日も比較的大きな逃げ集団が形成されます。
連日逃げに加わっているティボ・ピノー、ダニエル・ナバーロ、マイヨ・ア・ポアのラファル・マイカといった顔ぶれの中に今日はトム・デュムランや、なんとペーター・サガンの姿があります。
138km地点に設定された中間スプリントのポイントを狙ってのサガンの逃げ参加ですが、1級山岳2つを超えた先の中間スプリントを取りに行くという並のスプリンターではありえない芸当を今日もやってのけます。(まさに異次元の選手ですね。)
そんなサガンやマイカの活躍の裏で同じティンコフのエース、アルベルト・コンタドールが今日も不振に喘ぎます。
序盤でメイン集団から抜け出して逃げ集団に追いついたところまでは良かったのですが、
逃げ集団から遅れ、メイン集団に吸収され、さらにはメイン集団からも遅れ、ついにはバイクを降り……
そして、そのままチームカーに手を振りながら乗り込みます。
コンタドール、リタイア
初日から落車し、その後もメカトラブルや落車に度々見舞われ、不運もありながら調子を上げられなかったコンタドールですが、今日ついにツールを去る決断を下しました。
2014年の涙のリタイアとは違い、今回は冷静にファンに手を振りながらチームカーに乗り込んでいった姿はかえって印象的でもありました。
来シーズンはトレックへの移籍が噂され早ければ明日の休息日にも正式に契約か……とも言われていたコンタドールですが、その休息日を前にしてのリタイア…残念です。
今年はまだリオ・オリンピックへの出場もありそうですし、次レースでのコンタドールの復活を期待して待ちたいと思います。
さて、レースの方は逃げ集団の中で度重なる他選手のアタックを淡々とペース走法でこなしてきたトム・デュムランが超級アルカリスで抜け出し、そのままゴールまで独走。
昨年のブエルタ・ア・エスパーニャの活躍から一躍クライマーとしての能力を開花させたデュムランですが、アルカリスでもその登攀力と独走力をあらためて発揮しての勝利。やはり強い。そして年齢を考えるとこれからの飛躍が本当に楽しみな選手です。
本人はリオ・オリンピックでのタイムトライアル優勝を目指しているとのことですが、オリンピックを終えた来シーズンはいよいよ本格的にオールラウンダーへと進化したデュムランが見られるかもしれません。そうなると来年のグランツールの勢力図も一気にまた変わっていきそうです。
コンタドールのいなくなった総合争いですが、今日は終盤10kmからの有力選手によるアタックの掛け合いは見応えがありました。
アタックをかけたクリス・フルームとそれに即座に反応するナイロ・キンタナの一騎打ちという状況あり、度々アタックをかけるダン・マーティン、リッチー・ポートあり。
結果的にクリス・フルームとナイロ・キンタナは譲らずにタイム差はつかず、一方でファビオ・アルやティージェイ・ヴァンガーデレンはその争いについていけず脱落という状況。
やはり総合争いはクリス・フルームとナイロ・キンタナが最有力か……という状況が鮮明になってきました。(そんな中で健闘しているマイヨ・ブランのアダム・イェーツも注目かもしれません。)
山岳賞もティボ・ピノー対ラファル・マイカという状況になってきましたし、ポイント賞も着実にペーター・サガンがマーク・カヴェンディッシュを追い上げています。
明日の休息日をはさんで明後日のピレネー最終日ではどんな争いが繰り広げられるのか楽しみです。